40代以上の人には20代が「かわいそうな世代」と見えても不思議はない

一番の関心事は貯金 20代は「かわいそうな世代」なのか

「酒を飲まない。車を買わない。休日は「家にいる」。一番の関心事は貯金」
今時の20代って、こんな私のような週末ヒッキー生活をしてるんかい。という点でびっくりしたんだが、こういう生き方を擁護・賞賛する系のブクマコメやTBが多かったのに更に驚いた。
時代は変わったんだなあ、としみじみ実感。
個人的には、「なんかありがたい世の中になったらしい。こんな私がマジョリティになる時代がくるなんてなあ」と喜びたいとこだが、単に低賃金とか格差とかなどなどの諸問題の影響なのだろうと思うと、素直に喜べないというかなんというか…。


ただ、この記事を書いた人も読者(おそらく20代の方?)も、ちょっと誤解があるかもなあ、と思ったので、そのへんをちょっと書いてみようかと。


金を使うことが自己投資と思うかどうか、「酒飲まず/車なし/休日は家にいる」という生活をかわいそうと思うかどうかは、自分が20代だった頃にPC及びインターネット、ケータイとビデオ・DVDなどの録画機器が普及していたかいなかったか、で全然変わると思われる。


PCが個人レベルにまで普及したのはたしか90年代半ばごろで、バブル崩壊後だ。
PCもインターネット(というか当時はパソコン通信か?)も、それまでは理系のごくオタクな人くらいしか利用していない。価格もべらぼうに高かった。
コンパックが激安なPCを発表したのと、Windows95が登場したのとで、やっと一般人でも手に入れやすい&使いやすい状況になってきた、と記憶している。
そのちょっと前に、安めのMac本体+モニタ+安いプリンター(カラーではなくモノクロのインクジェット)+ビジネスソフト1本+ローンの利息で60万円を超えたことをよく覚えている。ちなみにメモリは8Mで、FDのみ。CDはまだ世の中に登場していなかったかな。
さらに、プロユースのマックだったら本体だけで100万くらいした、たしか。


余談はさておき。
携帯電話を個人で持つようになったのもそれと同じくらいの時期だったか、ちょっと後だったか。
その前に、ポケベルで数字や短いメッセージが送れるって時代が数年あったかな。
ついでにまた余談ですが、たしか「マルサの女」という映画に、業務用としか言いようのないショルダーバッグみたいな携帯電話が登場してます。その時代を知らない人には興味深いかも。


ビデオ機器はもう少し前から普及していたとは思うが、レンタルビデオ屋が登場し始めたのは何時ごろだったか、ちょっと思い出せない。
ネット通販やネットオークションも、もちろんない。カタログ通販ならあったが。


まあこんなふうに、インターネットで動画を見ることもできない、ケータイもない、メールもない、レンタルビデオ屋も再生機器もない、流行のものを知る手段は雑誌とTVだけ、という時代に青春時代(笑)を送った方は、面白いものを見たり聞いたりするため・楽しい思いをするためには自分が外に出ていくしかなかっただろうと推察される。


特に映画なんか、上映期間を逃したら一生見逃すはめになりかねない!と思っていたかも。
何か買いたいものがあったら、自分が店に行って品定めし、購入するのが一般的。
価格.comもないから、安く買おうと思ったらあちこちの店を自分の足でまわり、価格比較をするしかない。
いい品や流行の品などの情報を得るにしても、ポータルサイト掲示板もコミュもQ&Aサイトもないから、雑誌やクチコミ情報に頼るしかない。
雑誌の情報は誰にでも入手できるが、クチコミ情報はそうはいかない。
そのため、より大勢&良質(情報源として)の友達がいる=大きなクチコミネットワークを持っている人が社会的に(業種によっては仕事面でも)高く評価される。

大勢の友達を維持する&新規獲得するためには、定期的に飲み屋だの話題のスポットなどに出向いて親睦を深めたり、パーティーに出たりして知人から新しい人を紹介してもらったりしなくてはならない。
こんなふうに外に出るとなると交通費だの飲食代だの洋服代だのが当然かかる。
自由にあちこち行きたいと思うと「車があったほうが便利じゃない?」という発想に行き着くのも当然。


金を使うこと・外に出て人と会うことが、その時期の流行や各種情報・常識を身につけ、人脈を築くための手段、自分の中に情報を蓄積し感性を磨く手段であり、職種によっては顧客ニーズを把握するための重要な活動であった、それを「自己投資」という言葉で表現していたのだろうと思われる。ネット普及以前は。


ついでに、ネット普及以前と以後は、ちょうど終身雇用と年功序列が崩壊する前か後か、派遣労働が普及する前か後か、というのとも時期がだいたい一致していたと思う。


今では信じられない話だが、昔は新卒で入社した会社に定年までいるのが社会的にごく当たり前のことで、よほどのことがない限りやめさせられない&やめなかった、と記憶している。
解雇ではなく自発的な退職・転職であっても、何かやらかして解雇されたんじゃないかと疑われ、再就職にものすごく不利だったよな、確か。派遣労働もあまり一般的ではなかったはず。
そんな状況かつ年功序列な状況下で出世しよう、やめさせられないよう&飛ばされないようにしよう、とするならば、上司の飲みの誘い・ゴルフの誘いは絶対に断れないでしょうし、同僚とも出来るだけ仲良くしておくのが吉。
対上司・対同僚のコミュニケーションをうまく取れるかどうか、社内の裏情報の入手や根回しが上手くできるかどうかが、一生を左右しかねない最重要課題だったと思われる。
そしてそのためのミッションが麻雀だったりゴルフだったり酒だったりなどの社外活動で、それをクリアするのに必要なのが、話題の豊富さやコミュニケーション能力だったんでしょう。


このような状況でもなお“休日は家にいる”という余暇の過ごし方をしている(=非コミュ・情報収集不足な)人は、人付き合いが超苦手な人とか、遊興費は1円たりとも使いたくないという面白みのないドケチな人とか、本やマンガや虫や模型が好きなオタクな人、という見られ方をされてもおかしくはない。
つまり、社会の空気が読めてないかわいそうな人 or 一般的とは言いがたい人、てとこですかね。
ていうか、そういう時代の“休日は家にいる”20代独身は非モテ要因持ち&出世の見込みナシ組(=かわいそうな人)、と見られたかもしれませんな。


だけど現在では、知りたいことがあればネットで検索できる。自力でクチコミネットワークを構築する必要性が薄れた。
話題のものなどは画像や動画で視覚的に確認できる。ゲームもネット対戦が可能。
家にいてもケータイメールですぐに友人らとコミュニケーションが取れる。いちいち会ったり電話で話したりしなくても、メールだけで充分って人も多いかも。
映画なども、映画館までわざわざ出かけなくても問題なし。大抵のものはいずれ地上波やBS、CSなどで放映するし、モノによってはネットでも観られるし、レンタル屋でDVDを借りるという手もあるし。
わざわざ出かける&金を使う必要性もかなり薄れた。

そして終身雇用が昔話となったので、上司・同僚と良好な関係を維持することの重要度も低下。
さらに周囲にはたくさんニートがいる。年金もやばそう。
となると「近い将来どんな状況に陥っても、しばらくは食っていけるくらいの蓄えを持っておく」というリスクヘッジが最重要課題となる。
実に当たり前のことだ。


上記の記事中で「自己投資しろ」ってなコメントをしているジャーナリストで経営コンサルタント中島孝志氏が、現在おいくつなのかは分からんのだが。サイトを見にいったらご自身のことを不良オヤジと称しているようなので、たぶん結構いいトシなんだろう。バブル崩壊前に20代を過ごした方でしょうか。
普段の生活ではIT化にしっかり対応していても、新人教育などの話題になると、つい“自分が20代だった頃の経験・価値観・感覚”などなどが蘇り、その当時に通用した手法を若者に伝授したくなってしまうのはよくあること。
95年あたりで急激な社会情勢の変化があったために、それより前の時代の経験則・手法・価値観が現状にはそぐわない面があること、場合によってはただのトンデモとしか見られなくなっていることを、つい忘れてしまう。もしくは気付いていない。といったとこでしょうか。
中島氏もそういうノリで語ってしまったのでしょうかね。


しかし一方で、今の20代の人々がもし「貯金のみに専念している」って状況だとしたら、ちょっと危ういかなあと私も思う。
前述の「60万超でPCを買った」頃、私は従業員数5人の超零細編プロで働いていました。
編集の分野でもPC対応が進む中、勤め先の会社は零細すぎてPCも導入できなかったので、自分で買って学習することにしたわけだ。
その会社に就職する前は派遣やフリーターをやっていたんだが、月収ベースでは派遣以下・フリーターよりちょいマシ、て状況。年収では200万以下だったかな。
我ながら、とんでもなく無謀な買い物だったと思う。当然ながらその後、かなり貧乏な暮らしをする羽目になりました。よく1人暮らしを続けられたもんだ。

しかし、その時に無理をして自力で、社会の流れより一足速くPC及びソフトのスキルを取得したことが、その後の転職&就業にものすごく役に立った。
おかげさまで今もなんとか食っていけてます。
使うべき状況で使うべき対象にガツンと金をかけるというのも、時には必要かと思う。それに若い時のほうが物覚えがいいしねぇ(遠い目)。
かといって、今時はスキルアップしても資格をとっても、それが収入に反映されにくい状況だという気もするし。
自己投資しても報われないって世の中じゃ、貯金してたほうがマシですかねえ…。どうなんだろう。


あと、今後転職するかもしれない状況なら、人脈づくりもとても重要。
30代後半くらいから求人が激減する・募集してても30代後半だと採用されづらくなる理由の一つがそれで。
単に安く使える上に仕込みやすい若い人が欲しいから30代を避ける、という理由だけでなく、「社会人歴が10年以上もあるのに自分の人脈で転職先を見つけられない人=能力がないから他社から誘われない人=戦力にならない人」とみなす風潮がその背景にあるもようです。
まあ、前述のIT化以前に20代を過ごした人脈・クチコミ・根回し至上主義者ならではの発想、とも言えますかね。
そういう考え方が正しいかどうかはともかく、採用・不採用の決定権者にそういう世代の人が多いかもしれない、そういう意識を持っている可能性が高いかも、ということは頭に入れておいたほうがよろしいかと思います。
なので、何が何でも飲み会に参加しろとは言わないが、質素倹約が過ぎて非コミュな人になってしまわないようには注意したほうがいいでしょうな。

と、もうじき40のおばさんは思う次第ですよ>20代のみなさん
ちょこっとでも参考になったなら幸いです。

あと、昔から「酒を飲まない。車を買わない。休日は「家にいる」」という生活を昔から貫いている40代からそれ以上の皆さん。
非モテとか出世の見込みがないとか、かわいそうな人とかと称してしまってすみません。末尾ながらお詫び申し上げます&私もそれに該当する人種です。自虐ネタということで大目に見ていただけると助かります…。